Raindrop
そんな現実から水琴さんを救うために出来ること。


考えてもどんどん頭の中が真っ白になっていくだけだ。

ヴァイオリンしか弾くことの出来ない、ただの中学生の僕には。

何も出来ることが……ない。



『好きになっちゃ、駄目』

掠れた水琴さんの声が蘇る。


『その反対、かな』

コンサートの成功を祝って開かれたパーティで、そう寂しげに微笑んだ水琴さんの顔。

あれは確か、『自分は家族に愛されていない』というようなニュアンスだった。


『和音くんのおかげで前向きに考えられるようになったの。ありがとう……』

前向きに。

政略結婚を受け入れる気になった?



ああ、あれはそういう意味だったのかと。

思い当たることが多すぎて頭を抱えた。

あのふわりとした笑顔の裏に、彼女は一体どれだけのものを抱えていたのだろう。



『好きになっちゃ、駄目』

震えるほど強く握られた手の中に、どんな想いを込めていたのだろう。


そんな彼女に僕が出来ることは、なんだろう……。



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