Raindrop
学校から帰ってすぐに自室へと引きこもり、携帯電話を取り出した。

水琴さんが婚約したことで、僕たちのレッスンにも影響が出るのではないか。

そんなことを口実に母へ連絡を取った。



『思ったよりも早かったわね、正式発表……』

溜息混じりにそう言う母の言葉で、前々からの決まりごとだったのだと気づく。

そういえば、母は水琴さんのお母さんとは古い知人だと言っていた。水琴さんの婚約を知らないはずはなかった。

「いつ連絡が?」

『パリから帰ってすぐだったかしらね。でも安心して。一条さんの方では、水琴ちゃんの活動を止めるつもりはないらしいから。ちゃんと貴方が受験するまで面倒みてくれるそうよ』

「……そう」

『ただ、結婚式前後はドタバタするから、その間はお休みしたいってことだったけれど』

「……いつなの、結婚式」

『6月よ。ジューンブライドね』


目の前が暗くなっていくようだった。

あと半年。

半年後には、水琴さんはもう、手の届かない人になってしまうのだ。

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