Raindrop
場所をいつものレッスン室に移して、椅子を並べ、譜面台を並べ。

一年前に渡された懐かしい楽譜を前に、軽く音合わせをしてから顔を見合わせる。

「では」

水琴さんの声に、僕たちは頷いて弓を構えた。

視線を交わし合いながら大きく息を吸い込んで、吐き出すタイミングで演奏を始める。


静かに地面を叩く雨音から始まる、穏やかな旋律。

ちょうど良く外で鳴る雨音とリズムが重なり合って、部屋中に雨が降り注いでいるかのような錯覚を起こした。

降る雨はあたたかい。

肌に触れる雫は、心に響くやさしい温度。

音を紡ぎながらみんなの顔を見渡せば、一様に穏やかな笑みが広がっていた。


幸せになってください、と。

ありがとう、と。

そう、聴こえる。



今、ここに響く雨音が。

これからも、貴女を優しく包み込みますように……。

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