Raindrop
「次のレッスンまでに、今よりずっと上手に弾けるようにしておかなくちゃ!」

さあさあと降りしきる夜闇に水琴さんを見送って、花音が元気よくそう言った。

「僕も。水琴先生を失望させたくないものね」

「うんっ」

2人でそう頷き合う拓斗と花音に、僕も笑みを向ける。

「僕にも手伝えることがあったら言ってね」

「え、でも、兄さんも受験の準備が……」

遠慮する拓斗と。

「あのね、あのね、どうしても引っかかる箇所を教えて欲しいのー」

さっそく声をかける花音。

「花音~、もう、兄さんの邪魔しちゃ駄目だよ」

「……駄目?」

「少しなら構わないよ」

「わぁい! お兄ちゃんだいすきー!」

花音や拓斗にまとわりつかれながら、あたたかい明かりの灯る家の中に戻り、パタン、と玄関の扉を閉める。

それは僕の恋の終わり。

そしてこれから先も続いていく、水琴さんとの新しい関係のはじまり。


──そのはず……だった。

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