Raindrop
冷たい雨が降る。

鉛色の空から降りしきる梅雨の雨は重く、重く肩を濡らし、僕の心を押し潰す。


傍らには泣きじゃくる妹。

その妹の隣に、僕と一緒に妹を支えながら、涙に頬を濡らす弟。


彼女のお別れ会は、人で溢れていた。


婚約者である一条の関係者なのだろう、政財界の重鎮の顔がズラリと並び、水琴さんと関係ある音楽業界の顔も多かった。

ファンによる献花台も設けられていて、次から次へと弔問客が訪れていた。


僕たちは錚々たる顔ぶれを前に、隅の方でただ、白い薔薇で飾られた祭壇の上で微笑む水琴さんの遺影を眺めている。

優しく微笑むあの写真は、つい最近発売されたCDジャケットのもの。

白いドレスを纏いヴァイオリンを弾く、凛とした立ち姿はまさに『斎賀水琴』らしい、可憐で美しいものだった。

それが、こんなところに使われるなんて。

白い薔薇だけ見れば、披露宴や式場での雛壇にも見えなくないのに。

……いや、そういう演出なのか。

結婚を前に儚く散っていった悲劇のヒロインのごとく。

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