Raindrop
音のリハビリのために、弦楽器からは離れてピアノやフルートを鳴らしてみた。

隣で聴いていてくれる西坂は、『和音様は誰よりもお上手に弾けていらっしゃいます』と言う。

本当だろうか。

僕の耳にはそうは聞こえない。

それとも、僕は耳までおかしくしてしまったのだろうか。


分からない。

音楽の楽しさも、僕が目指していた音がどんなものであったのかも、そして、ヴァイオリンの弾き方すら。

分からなくなってしまった。


気分が乗らないままに弾いていたピアノから離れ、蝉の鳴く窓の外に目をやる。

蒼穹に湧き立つ夏雲の白さに目を細めると、一年前の光景が蘇ってきた。

夏の終わり。

欧風の街並みを先頭に立って歩いていた彼女が、初めて見せた涙の音。

甘い甘い、ショパンの優しい雨音……。



「おにーちゃーん、パフェ作ったのー。一緒に食べよう?」

いつの間にか、僕の腕を引っ張っている花音。

「冷たいお茶も淹れたから。少し休憩しようよ」

反対側で、花音と同じ顔で僕を見上げて微笑んでいる拓斗。

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