Raindrop
そんな、何でもない日常が過ぎていく。

僕たちを心配し、忙しい仕事の合間を縫って頻繁に家に帰ってくるようになった両親。

一定の間隔を空けて様子を見に来てくれる友人。

そして年下の弟妹たちにまで心配されて、優しくされて。

水琴さんを失っても、彼らとともに何も変わらない日常が過ぎていく。

そんなことが許されるのかと、どこか背徳感に似たものを感じながら。




表面上は明るく振舞いながらも、常に心は深く暗いところにあって。

ヴァイオリンを弾けなくとも変わらず過ぎていく日々に、ああ、弾かなくても同じく時間は流れていくのだと思い。

ヴァイオリンを弾かなくても生きていけるのだと思い。

もう弾かなくてもいいと、思い。



そうしてそのまま秋がやってきて、さすがに両親は──特に母は──心配になったらしい。

いつまでもヴァイオリンを弾かない僕に、心配とともに焦りを感じているようだった。

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