Raindrop
「もう願書を提出しないといけない時期よ? ちゃんとした演奏を録音しないと」

「うん、分かってる」

「分かっているのなら、弾いてみなさい。母さんが見てあげるから」

いつになく強い口調で、正面から見つめてくる母。

その視線は何もかも見透かしているようで、ふい、と目を逸らした。


今の僕は弾けない。

もう3ヶ月もまともに弾いていない。天才ヴァイオリニストと謳われる母に聴かせられるような状態ではなかった。


僕に期待してくれている母。

それに応えようとしてきた僕。

出来るはずだった。少し前まではその自信に満ち溢れていた。なのに、今は、もう……。


「……母さん。僕はもう、ヴァイオリンは弾かない」

口にすれば終わりだと思うからこそ、三ヶ月もの間先延ばしにしていた言葉を、母に伝える。

「どうして?」

「もう弾きたくない」

「どうして?」

「……弾けないんだ」

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