Raindrop
病室の隅から僕たちを見つめていた西坂が、厳つい顔に似合わず号泣しているのを視界の端に捉えながら、拓斗と微笑みあう。

それからまた、包帯の巻かれた手に目をやって。

ヴァイオリンを弾きたいと、改めて思った。



『納得出来る演奏が出来るようになったら、また聴いていただけますか』

『ええ、もちろん』



去年のクリスマスに水琴さんと交わした約束を、ふと思い出す。

J.S.バッハの『無伴奏ヴァイオリンパルティータ第二番』より、シャコンヌ。

まだまだ未完成だったあの曲を、完璧なものにして水琴さんに聴かせる。

果たしていない約束があった。


包帯の巻かれた手は今のところ動かない。

それでも、その約束を果たすためになら、前を向けそうな気がする。


そうしてもいいですか。

そうする僕を赦してくれますか。


水琴さん……。


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