Raindrop
日常生活に支障ないくらいに、元通りに動くようになる可能性は70パーセント。

ヴァイオリンを弾けるようになる可能性はそれよりも更に低い。

それでも可能性がゼロでないのなら、僕は完治へ向けて全力で挑むだけだ。


手の感覚が麻痺している間は、痛みや熱にも鈍感になるので、怪我には十分注意することと、決して無理はしないということを念を押されて退院した。

左手が動かない僕の代わりに、料理当番は拓斗、花音が毎日一緒にやると言い、心配したメイド長のかなえさんが影から見守ることになった。

他の家事も全部執事、メイドたちに渡すことになり、僕がやることは受験勉強のみ、というこにとなってしまった。


「なんだか、勉強だけというのも暇なものだね」

趣味の料理は出来ないし、ヴァイオリンも弾けない。

気分転換にピアノを右手だけで弾いたりは出来るけれども、なんとなく寂しい。

「それで良いのでございます。ご学友の皆様は受験だけに励む時期なのですから」

部屋の隅に控えている西坂が、お茶の用意をしながら言う。

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