Raindrop
気長に、じっくりと腰を据えて治療をする。

その主治医の言葉に従い、毎日手のひらをあたたかいお湯に浸し、指を伸ばし、ゆっくりと動かすリハビリを続ける。

良くなっているのか、そうでないのか……回復の実感を得られなくて、少しずつ鬱々とした気分が溜まってきていたとき。

「和音、父さんがマッサージしてあげようか」

久々の国内コンサートの合間を縫って帰ってきていた父が、リビングにいた僕に声をかけてきた。

「ああ……うん」

父は僕の隣に座ると、ほかほかに温められたタオルで僕の手を温めてから、程よい強さで指のマッサージを始めた。

「痛くないかい?」

「大丈夫だよ」

時々、ぴりりと痛みはあったけれど、我慢できないほどではなかったので、そのまま父に任せた。

「毎日ちゃんとやっているかい?」

「やってるよ」

「そうか。……辛くははないかい?」

マッサージを続けながらそう訊ねる父に、僕は一呼吸置いて、正直に答えた。

「……少しね」

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