Raindrop
もしかしたら動かないままなんじゃないか。

もうヴァイオリンを弾くことは出来ないのではないか。

……そう、思い詰めることもあった。

「そうか」

父は穏やかな顔で、マッサージを続ける。

「凄く凄く辛くて、もう駄目だ、もう耐え切れないって思ったときには、辞めてもいいんだからね」

「……え?」

問い返す僕に、父は少しだけ顔を上げ、穏やかに微笑む。

「君の中にある可能性はひとつじゃない。君の目の前にはいくつもの道が伸びているんだ。……分かるかい?」

「……うん」

「もう駄目だと思っている道を、無理やり進んでいくのも自由だ。逃げ帰って、別の道を作り直すのも自由だ。道はひとつじゃない。もっと自由に、楽に考えていいんだよ」

「自由、に……?」

「常に自分に問いなさい。それは本当に自分が進みたい道なのか。ただ意固地になっているだけなのではないか。他に可能性はないか。……広い視野でね」

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