Raindrop
「……うん」

「それを踏まえた上で。和音は本当にこれからもヴァイオリンを続けたいかい?」

そう言われ、少し考える。

視線を落とし、左の手のひらをじっと見つめる。

ろくに動かないその手に、僕は可能性を見出すことは出来ていない。

けれどもまだ諦めたくない。

果たさなければならない約束が──果たしたい約束があるんだ。

「続けたいよ、父さん。僕は……ヴァイオリンが好きなんだ。こんな手になって、改めて実感したんだ。ヴァイオリンを弾かない僕なんて考えられない」

そう、きっぱりと言うと、父は嬉しそうに微笑んだ。

「そうか。ならば父さんはその道を全力で応援しよう」

「ありがとう、父さん」

いつもはおちゃらけた人だけれども、こういうときはちゃんと向き合ってくれる父に、感謝した。


……けれど。


「一度決めた道でも、また何度か悩む日も来るだろう。だがその度にまた考えればいい。そして誰かを頼るといい。父さんはいつでも迷える子羊和音を受け止める準備をしておくからね! さあ、偉大なる父の胸に飛び込んでおいで、かわいい息子よ!」

……と、目をキラキラさせながら両手を広げる父には、溜息が出る。

これがなければ、本当に尊敬する父なのだけれど。

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