Raindrop
「そうか……。オーディション、かなり厳しいらしいけど、頑張って」

「ああ。だから、お前も」

響也は僕の左手首を掴み、空へ向かって掲げた。

「これ、早く治して、クラシックの頂点目指せよ。俺はジャズの頂点目指すからさ」

半年経っても、うっすらと赤い痕が残る左の手のひら。

それを見つめながら、僕は微笑んだ。

「どちらが先に頂点に立てるかな」

「フフン、競争してみっか?」

「いいね」

チラリ、と互いの不遜な笑みを見合って、僕たちは大声で笑った。

柔らかい色の青空の下に一頻り笑い声を響かせた後、起き上がって響也と握手を交わした。

「和音、負けんなよ」

「ああ」

「次会うときは同じステージだ。また一緒に演るぞ」

「マスターたちも呼ぼうね」

「いいな、それ! 約束したぞ!」

ニイッと人懐こい笑みを浮かべる響也とそう約束を交わし、僕たちはそれぞれ進むべき道へと別れていった。


彼はここの高等部の音楽科へ。

僕はまったく音楽とは無縁の普通校、天神学園へ……。


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