Raindrop
最初は手のリハビリも兼ねた練習だった。

ケースからレディ・ブラントを取り出し、中学の頃のように屋上で音を奏でる。

……とは言っても、まだまだ僕の手は思うように動かなくて、弦を軽く押さえ、ただ音を出しているだけの状態だった。

たまたま聞いていた生徒に、

「へったくそー」

と、笑われた。

確かに下手だった。

ちょっとだけ傷ついた。

でも『下手だ』と笑ってもらえたことで、何かが吹っ切れた気がした。



次の日は音楽室で弾いてみた。

そこで出会ったポニーテールのやけに幼い先生に、

「おや、どこかで見た顔だと思ったら、貴方は橘くんの息子さんですか。ええ、存じておりますよ、私が面倒をみましたからね」

……と言われた。

はて、と首を傾げる。

僕よりも年下に見えるこの先生に、父が習ったというのだろうか?

不思議に思いながら先生を見下ろすと、ふふ、と笑われた。

「貴方もこの学園で自分の道を見つけられるといいですね」


< 330 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop