Raindrop
今は鮮やかに咲き誇る紫陽花さえもくすんで見えるけれど。

それでも、今日からはきっと……僕はまた新たな気持ちで前に進んでいける。

今日と言う日が一生忘れられない日になるだろうけれども。

どんなに時が経とうとも、この先誰を愛することになっても、今日だけはあのふわりとした微笑を思い出す日にする。


そう決心して奏でるのは『雨』。

水琴さんと最後に弾いた曲、ショパンの『雨だれのプレリュード』。

彼女の笑顔も涙も、僕の中に降る穏やかな雨音に閉じ込めようと、丁寧に音を紡ぐ。


いつしか本当に雨が降りだした。

降りだすだろうということは分かっていた。

この雨が僕のレディを傷つけるだろうことも分かっていた。

分かっていて、ここで弾き続けた。

そうすることしか出来なかったんだ。

彼女が残したヴィオラの音を捕まえて、そうして僕の想いを解き放つには──。

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