Raindrop
乗り込んですぐに車は発進する。

雨粒が車窓を流れていくのを眺め、ほうっと息をついた僕は、レディを抱えたまま隣に座る水琴さんを見た。

「中は濡れていないかしら……」

カーディガンの包みをそっと開き、レディの状態を確認する水琴さんを見つめていると、それに気づいた彼女が視線を上げた。

「どうしてこんなことをしたの? 濡れたらヴァイオリンは駄目になるって、知らないわけではないでしょうに……」

「……そうでもしないと、貴女を忘れられなかったんです」

レディで雨だれのプレリュードを奏でたら、それを墓前に捧げて帰るつもりだった。

僕の想いが詰まったレディを、そこに置いていこうと思って。


「そう……」

僕の答えに、水琴さんは長い睫毛を伏せた。

「……それよりも。僕はまだ頭が混乱しているのですが。どうして貴女が、ここに……」

「あっ、そうよね。この子のおかげですっかり忘れていたわ……」

水琴さんは微笑を浮かべ、レディをそっと撫でた。

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