Raindrop
そのまま額を合わせ、言葉を紡いだ。

「……今日は、どうしてここへ来たんですか?」

「お別れを、しに……」

「……誰と?」

「貴方と」

囁き合いながらもう一度唇を合わせ、少しだけ離れる。

「僕と?」

「そう……。貴方とのことは、『斎賀水琴』の中で一番綺麗な思い出だった。だから『彼女』にそれを渡して、永遠に眠らせてあげようと思ったの。新しい『私』のために」

「それは……」


まるで。

レディ・ブラントに想いを託して思い出と決別しようとした、僕のようだ。



「水琴さん」

しっかり顔を捉えられる位置まで離れ、真っ直ぐに彼女を見つめる。

「どうして今日、ここへ来たんですか?」

「え? ……だから、お別れを……」

「違いますよ。どうして“今日”を選んだのか、ということです」

僕の質問に、水琴さんはゆらりと瞳を揺らした。

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