Raindrop
事件から数日後。

僕は練習場所に借りている『fermata』の狭いステージの上で、ヴァイオリンの練習に明け暮れる。

花音はあれから、学校を休んでいる。

母には無理をさせなくても良いと言われていたし、本人は行きたいとも行きたくないとも言わないので、勝手な判断で休ませた。

学校へと行く僕と拓斗に、寂しそうな笑顔で「行ってらっしゃい」と言う花音。

扉が閉まる寸前に、微かに見える俯き加減に立つなんとも頼りない姿。

それを思うと、授業が終わったら一目散に帰ってあげたいところだけれど──。

情けないことに、僕はまだ、家では弾けない状態だった。



曲を通して弾き終わったところに、パンパン、と拍手が鳴った。

「良くそんな澄ました顔で弾けんなぁ」

賞賛しているのか、そうでないのか──ステージ前のソファにだらりと座った響也は、そんな感想を漏らした。

「ラ・カンパネラ──か。随分攻めるよな」


N.パガニーニ作曲『ヴァイオリン協奏曲第2番ロ短調 作品7 第三楽章』

通称、『ラ・カンパネラ(鐘)』

僕のコンクール用の曲だ。

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