Raindrop
一般には、F.リストによりピアノ用に編曲されたものの方が、馴染みがあるかもしれない。

聴力を失い、波乱のピアニスト人生を歩んできた、フジ子・ヘミングの『奇跡のカンパネラ』などでも有名だ。

「今年で国内のコンクールは最後にするつもりなんだ」

そう言うと、響也はぽかーんと口を開け、しばらくしてから何度も頷いた。

「なるほど、集大成ってヤツか。まぁな、お前ジュニアのレベルじゃねぇしな」

そうでもないけどね、と心の中で呟いたけれど、口には出さないでおく。

「けど、パガニーニなんてお前らしいな」

「そうかい?」

「ヴァイオリンの神、パガニーニ……その魂を悪魔に売り渡して演奏技術を得たと噂されるほどの天才ヴァイオリニスト」

ニヤァ、と笑いながら僕を指差す響也。

「ヤツのヴァイオリンを聴いた女は、みんなヤツの虜。まさにお前だろ」

「……出来るなら、そうしたいね」

軽く息をついて、床に置いておいたヴァイオリンケースにレディをしまう。

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