Raindrop
ここしばらく、あんな花のような笑顔は見なかった。

母が連れてきた新しい先生に感謝だ……。



そのうち演奏していた2人が僕たちに気づいて、水琴さんの休憩も兼ねて4人でお茶にし、そして拓斗の練習時間になった。

その間、僕は自室でヘッドフォンをして勉強。

教室にしてある客間は僕の部屋からは遠いので、ほとんど音は聞こえないのだけれど……なるべく拓斗の音を耳に入れたくなかった。

もう明後日が二次予選だというのに、未だ呑み込まれそうになるのは、僕が自分の演奏に自信がないからだ。

その自信のなさを埋めるよう、ここのところ、一日8時間は弾いているのだけれど。

やっぱり僕のヴァイオリンからは『鐘』の音が聞こえない。

スランプ──とでもいうのか。

そんな言葉で片付けたくはないのだけれど。

今の僕は、完全に行き詰っている。


「おにーちゃーん」


ふいにヘッドフォンが外され、花音が僕の顔を覗き込んできた。

沈思していたので、軽く驚いて花音を見上げる。

「ああ……どうしたんだい?」

「お兄ちゃんの番だよ。水琴せんせー、呼んでるよ?」

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