Raindrop
「もうそんな時間だったんだね。呼びにきてくれてありがとう」

「えへへ~」


微笑む花音に手を引かれて階下に降り、レッスン教室の客間へ行くと、水琴さんと拓斗が談笑をしていた。

女性と話すのはあまり得意そうではない拓斗だけれど。

彼も懐いたようだ。

(……すごいな)

まだレッスンが始まって3日目だ。

初対面を含めても4回しか会っていないのに。

決して人付き合いが上手いとは言えない僕たちに、自然に溶け込んでくれている。



「和音くんには、私から教えることなんてないくらいなんだけれど」

グランドピアノの横で、ラ・カンパネラの楽譜をパラパラと捲りながら、水琴さんは言う。

「いえ、僕なんてまだまだです。ご指導宜しくお願いします」

一礼し、譜面台に楽譜を乗せる。

「それじゃあ、一度通して弾いてみましょう」

水琴さんの言葉に頷いて、弓を構える。

視界の端には、ソファに並んで座る拓斗と花音の姿がある。

前回2回とも見学は遠慮してもらったので、僕が弟たちの前で弾くのはおよそ二ヶ月ぶりくらいだろうか。

久しぶりだからか、2人ともやけにキラキラとした目で僕を見ている。

正直、やりづらいのだけれど──未完成な曲を弟たちに聴かせるのはなんとなく、プライドが許さない──家でレッスンを受けると決めたのは僕自身だ。

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