Raindrop
びっしりと書き込んで真っ黒になった譜面を一瞥し、そして弾き始める。

自分の頭と体に叩き込んだ音符を丁寧になぞり、弦上に指を滑らせる。

約7分間、一度も気を抜くことなく、音も外すことなく、弾き方としては完璧だった──はずだ。

「……んん?」

弾き終わった僕に水琴さんは、ゆるく巻かれた栗色の髪を揺らしながら首を傾げた。

「どこか悪いところがあったなら、ご指摘ください」

僕からすれば、どこが悪いと言ったら全部なのだけれど──と聴いてみると。

「ええ……ごめんなさい、もう一度、最初から」

「……はい」

頷いて、もう一度最初から弾いてみる。

いつも通り変わらない。やっぱり鐘の音が聞こえない、ただ音が流れていくだけの演奏……。

もどかしい。

もっと表現出来るはずだ。

教会の屋根の上から響く、荘厳な鐘の音を──。


ぱん、と手を叩く音がして、はっと演奏を止めた。

「はい、そこまで」

手を鳴らした水琴さんは、すっと僕の前に歩いてきた。

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