Raindrop
それを顔に出したつもりはなかったけれど、このヤンチャな彼は意外にも人の気持ちに敏感らしい。

「ああ~……」

急にニヤニヤし出したかと思うと、肩をポンポンと叩かれた。

「今年は弟くんと同じステージだもんな。昨年一位を掻っ攫ったキミを脅かす最大のライバル登場なわけだ。同じ土俵に上がる以上、甘えも遠慮もなく戦うというわけか」

「……まあ、競い合う以上はね。手を抜くつもりはないよ」

なかなか鋭い響也に、軽く微笑みながら答える。


夏に行われる国際ジュニア音楽コンクール。

ヴァイオリンE部門(中学生部門)には弟の拓斗と揃ってエントリーしてある。

すでに一次のビデオ審査は通っているので、次は会場での二次予選だ。

けれど僕は二次なんか眼中にない。

目指すべき本選、その頂点。そこだけを見ている。


正直に言うと、『ジュニア』の世界すら眼中にはなかった。

僕は更にその先を見ていた。

両親と同じ『世界』を。

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