Raindrop
「ま、兄貴としては弟に負けるわけにはいかねぇよなー」

「まあ、ね」

だからといって、拓斗に差をつけたくてこうして隠れて練習をしているわけではなかったけれど。

しかし響也はそういう風に受け取ったらしい。

「そういうことならさー、いい練習場所あんだけど、紹介してやろうか?」

「え?」

「どんな場所でも構わねぇってなら、話つけてやっけど……」

そう響也が話す声に被さるように、耳障りな単語が飛び込んできた。

「どうせ次も橘だろ。出来レースだよ」

僕も響也も、ぴたりと足を止める。

「主催と『橘律花』、コンセルヴァトワールの同期らしいじゃないか」

「マジでー?」

「そりゃ決まりでしょ。真面目に練習してんの、馬鹿みたいだな」

開け放たれた教室の扉の向こうにいるのは、僕や響也のクラスメイトたちだ。

通っている音楽教室で何度か見かけたことはあるが……ぼやけた印象しかない。

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