Raindrop
二次予選は、僕も拓斗も花音も、そしてなんと響也も無事に通過した。

「奇跡だ!」

予選から一週間後。夏休みに入ったある日。

水琴さんのレッスンのない日は日課のように通っている『fermata』で、薄暗い天井を仰ぐように体を逸らしながらガッツポーズをする響也。

「奇跡っつーのは努力する者の頭上に輝くのだ!」

「奇跡なんかじゃないよ。それは君の実力だ」

熱く語る響也にが可笑しくて、軽く笑いが漏れる。

「へへ、そうかよ。しっかし、笑えるな。浅葱一派に何が起きた? 浅葱姉妹以外ボロボロだったぜ?」

響也の言う通り、浅葱姉妹の取り巻きたちの結果は散々たるものだった。

演奏前に揉めたせいか、メンタル面で未熟な者たちは実力を発揮することなく終わったのだ。

さすがに入賞経験もある浅葱姉妹は、そこまで弱くはないみたいだけれど。

「それに引き換え、小鹿ビームのかわいいことったらねぇな! 弟くんもやってくれたしなぁ。フツー、予選の演奏は途中で止められるモンだけど……お前と弟くんだけだろ、最後まで演奏したの」

「そうだね」

「そんだけ聴き応えがあったんだな。さすがだな……」

響也は感心してくれるけれど……“あんな”演奏でも良かったのだろうか。

僕は予選の演奏に満足していなかった。

水琴さんに『それで予選は通る』と言われた通り、予選通過には事足りる程度のもので、とても他人に聴かせて良い音ではなかったのに。

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