Raindrop
本当に今のままで、本選までに『鐘』を鳴らせるだろうか。

そう不安に駆られる毎日なのだが、隔日にやってくる水琴さんから言い渡されたのは、『練習時間は2時間まで』だった。

もちろん、意義を申し立てた。

本選まで一月を切っている。そんな練習時間ではとても追いつかない。コンクール前ともなると5時間以上が普通だ。なのに……。


「和音くんは“弾けて”いるの。今貴方に必要なのは、十分な休養を取ることです」


そう言って退かない。

休養ならば予選前日から今日に至る一週間ほどの間、十分に取ってきた。

指や腕、肩に支障が出るような弾き方はしていないつもりだし、僕はどこも疲れてなどいないというのに。

必要なのかどうかすら分からない休養を取ることで、ヴァイオリンを弾きたくて──弾けない焦りで、胸が疼く。

けれども水琴さんを師を仰ぐからには、僕はその言葉を受容するしかない。納得することは出来なくとも。



「そういやぁ、お前、すんげー美人の先生についてるんだって?」

興味津々、というキラキラ輝く目で僕を見る響也。

僕はチューニングをしながら、目線だけを響也にやる。

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