Raindrop
「そうだね、綺麗な人だよ」

若干の音ずれが耳障りだ。心持ち糸巻きを回し、音を高く調整する。

「いいなぁ~。俺、おじいちゃん先生だからよぉ。若くて綺麗なお姉さんに習いてぇよ」

「僕は……それなりに経験のある先生の方が、信頼出来て良いと思うけどね」

もう一度音を鳴らしてみて、音を確認。今度はしっかりと澄んだ音になった。

「何、綺麗なお姉さんじゃ不満なのかよ」

「不満、というか……」

いまいち信頼を置けないというか。

実力は僕の遥か上をいく人だ。それはすぐに分かった。

けれども、まだ大学生。人に教えることに慣れているかと言われたら、答えは否、だろう。

まだ教える側としての経験の浅さが、一番ネックになっているのだけれど……よく考えれば、花音も拓斗も、彼女に教えてもらってから更に伸びやかな演奏をするようになった。

この短期間で確実に成長していると思う。

それを考えると、僕は自分のことだから気づかないだけなのかもしれない、とも思う。

だとすれば、水琴さんの教え方は間違ってなどいない。経験が浅くとも、的確な指導が出来ている。

なのに心から信頼出来ないのは、弾かせてもらえないことに不満がある……それだけの理由なのか。

そのことに気づいて自嘲する。

──なんて子ども染みた理由なのだろう。


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