デュッセルドルフの針金師たち前編
もちろん左ハンドル右手にレバーがある。ところが、
バックミラーもサイドミラーもない。
いろいろ聞いたがどうも安い車はこれが普通らしい。

ラジオもクーラーももちろんない。ワーゲンは
ハンドルの切れがとても悪い。広い道でもUターンは至難の業だ。
坂は全然登らない。何という車だ!フォルクスワーゲン。

その名のごとき国民車。平坦な道をただひたすら毎時80キロ
で走るためにのみ作られた真に安価な国民車だったのだ。

だけどやはりあのビスビスビスの音だけは、
全てのマイナスイメージを覆させてくれた。

その後ワーゲンヴァリアント、ワーゲンポストワゴンと
乗り継いでいくがこの左ハンドルにビスビスビスは最高であった。

初めて走る右側通行、左折で何度も間違いかけたが、
ビッテシェーン(すんまへん)とベンツィーン(ガソリン)を憶えた。

全財産をつぎ込んで一文無しにはなったが、
さあ、コペンへ戻ってアルバイト探しだ。

天気もよく意気揚々と、旅だ!と叫びながら、
国境を抜けた頃から何か気になる音がしだした。

あとコペンまで20キロのところでついにガチガチと言う音がして、
車は止まったまま全く動かなくなってしまった。万事休す!
なんとクランクシャフトが折れてしまったのだ。

近くで修理屋を探し英語もドイツ語も片言で全く大変だったが、
何人かがかりで絵と図とを書いてやっと理解ができた。

しかし辞書にはないが非常によく使うカプゥト、カプゥト
(壊れた、駄目駄目の意)をこの時しっかりと憶えた。
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