デュッセルドルフの針金師たち前編
シェフはオサムのことを自分の弟子のヤパーナー
と説明しているみたいだ。2,3人くらいがオサムの
方を見ている。上目遣いに会釈をする。

他の連中はもう飲み食いで完全に無視されている。
早めに帰ろう、一人浮いている。食うだけ食って
飲むだけ飲んだら、シェフに「ツリュック」(戻る)
と言って先に帰った。

にぎやかだけど孤独だった。真夜中の大通り、
誰もいない遊園地のようだ。イルミネーションは
こうこうと輝いているのに音が全く聞こえない。

人の姿はなくてとても静かだ。雪が道脇に積み上げられている。
超大型のサンタクロースが、おいでおいでをしている。

オサムが通り過ぎても、誰もいない空間に向かって
ずっと、おいでおいでをしている。とても孤独だった。

子どもの頃クリスマスツリーはとても大きかった。
だけど今はとても小さく見える。ビージーズを
聞きながら毛布に包まってとにかく眠った。

うとうとしたら向こうのベッドのものすごいきしむ音で
目が覚めた。シェフがドイツ女とやりまくっている。
酒のせいかとても激しい。何故ドイツ女と分かったか?

静かになってしばらくして金髪女がオサムの部屋を
トイレと間違えて侵入、オサムに”まあかわいいべビィ”
と頬擦りしてきたからだ。

ふけた女だったが、なぜか顔は涙で濡れていた。
自分にもこのくらいの子どもがいたのかも?

オサムはむしょうにハラが立って寝返りうって
知らん顔をしてひたすら眠った。

早く春になれ。借金返して、スウェーデンで稼いで
来年こそは絶対に最高のクリスマスにするぞ。
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