デュッセルドルフの針金師たち前編
ユースで知り合った小曽根という、前歯が差し歯で
いつも抜けそうなボーっとした男、カナダで庭師を
して欧州入りしたその男とストックへ向かうことにした。

ところが出発前日になってあのマメタンが、私も連れてっ
てと言ってきた。東京館に退職願いを出して、アパートも
清算し、荷造り準備オーケーとのことだ。なんて奴だ。

しかし、どうも何か訳がありそうだ。無理して笑顔を作っ
ている。小曽根と顔を見合わせて”まあいいじゃん”
3人で行こかと決まった。またまた珍道中が始まる。

もうヒッチハイクはなれたものだ。何台か乗り継ぎ、
バイキングの大型人形の目印を超えて、
なつかしのストックに着いた。

途中のヒッチ、BMWのお兄さんはめちゃくちゃ飛ばすし。
2人のヤングの車はずっとしゃべりっぱなしで、途中で
いきなりポンと下ろされるし。郊外から乗ったバスには、

右顔面半分が全部黒いあざの美少女が乗り込んでくるし。
我々は思わずびっくりしたが他の乗客は全く平気だった。
少女はにこりとこちらに微笑んだが、金髪に抜けるような

白い肌、ブルーの瞳、顔半分が真っ黒なのだ。平気で友達
とおしゃべりしている。日本ではまず考えられない。まわ
りも出歩くなと言うだろうし、本人も出たがらないだろう。

すばらしいことだ。日本も早くこうならなくちゃ。
そういえばコペンで、乳母車に黒白二人のベビーを
二人とも私の子だと母親がうれしそうにほお擦りしてた。

やはり日本では考えられない。

コペンで出産した日本人女性は、費用は全て無料で毎週
大きな天秤量りを持って看護婦さんが巡回に来る。
至れり尽くせりだ。さすが福祉の国。

ところがオサムたちのような出稼ぎ労働者には重税が
のしかかる。なんと収入の半分が税金なのだ。それでも
ドイツより北欧のほうが実入りがいいのは、そうとう

物価が高いということだ。朝晩ダブルで必死に稼ぐと
いうのが実態だった。それでも労働許可証が取れて
福祉は十分行き届き、3年で永住権が取得できると

いうのは、捨て身の日本人には魅力であった。
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