デュッセルドルフの針金師たち前編

マルメの別れ

その男は佐藤武というそうだ。講道館柔道五段。
欧州に柔道を広めるべく日本代表としてコペンに派遣された。
世界柔道界のプリンス。もちろんパトロンやスポンサーが

かなりいて、その女性パトロンとマメタンとが人目も
はばからず派手に遣り合っていたのだ。佐藤はこれまた
相当のプレイボーイで他にもその手の話には事欠かなかった。

ところが今佐藤は日本に帰国中ということで、そこはそれ、一度
決着をつけて身を退いたが、悪く言えば負けて逃げ出したのに、
おめおめコペンへ帰れるか、ということだったようだ。

しかし今となっては、このピンチの中では、コペンへ戻るのが
一番だ。恥を忍んで東京館へ戻ろう。そうマメタンは決意した。

「はよコペンへかえり。ヒッチでマルメまで送っていくから」

二人ともなんとなく気が重い。口数も少なく元気が出ない。
負け戦だ。とにかくマメタンをコペンに返してすぐにストック
へ戻り必死で仕事を探そう、オサムもそう決めた。

さいわいヒッチハイクで乗っけてくれたご夫婦がとても良い人
たちでやっと少し元気が出てきた。マルメの北のほうの小さな
町で新聞社をやってるご夫婦で、是非泊まっていけと言う。

日本という国のことを取材させてくれということで一晩お世話
になった。

日本の言語は世界で一番難しく、漢字、ひらがな、カタカナ、
アルファベットとタイプも四種類あり、表意文字の漢字たるや
数万語。ひらがな、カタカナは各50文字。アルファベットは

わずか26文字とか、えらそうなことを一杯しゃべった。
ようやくマメタンもオサムも元気になった。
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