デュッセルドルフの針金師たち前編
後日、東京館に送られてきた新聞に、写真入で
この言語のことがそのまま紹介されていた。

さて、白樺に囲まれた広い邸宅。かなり歴史
のありそうな伝統的な造りだ。一部屋づつ時間
をかけて家具から小物まで詳しく説明を受ける。

お返しにヒデとロザンナの歌や、赤とんぼを歌い、
夕食をご馳走になり、マッサージをしてあげて、
すっかりと夜も更けてきた。

別宅の2階の寝室に案内された。子どもたちが
昔使っていた部屋だそうだ。本格的な山小屋風
ログハウスだ。その2階は屋根の傾斜に沿って

大きな出窓がある。星がとても美しい。ベッド
は引き出しのようにフロアに直接スライドして
くる。出窓をはさんでベッドが二つ。

とても星のきれいな初めての夜だった。
彼女は思い切り泣いた。悔しくて泣いたのか?

悲しくて泣いたのか?それはまさに、
訳の分からない青春の涙だったと思う。

翌日のマルメの港。小型のフェリーに汽笛がなる。
二度としたくはなかった船での別れだ。こんどは

送る側だ。船が見えなくなるまでずっと突っ立っていた。
何故だかとても悔しい。負け戦だ。今のところ負け戦だ。

「仕事が決まるまで毎日はがきを出すからね。
君もしっかりがんばれよ」

「私は大丈夫よ。コペンにいれば何とかなるから。
オサムも頑張ってね」

青タオルがいつのまにかオサムになっていた。
昨晩のヒデとロザンナの歌が、
あのほしぞらと共によみがえる。

『♪自由にあなたを愛して愛して二人は傷ついた♪』
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