デュッセルドルフの針金師たち前編
どう見ても先輩ベテランの風貌なのでこちらが丁寧になる。

「イスラエルのキブツで1年働いて先月デュッセルに来た
んや。日本を出てからもう2年になる。インド、中東、
アフリカ、エチオピアを回って何度も死にかけた」

という人だった。そのうち作業は大きな首輪になっていった。
この輪っかに半円形パーツを大中小4321とつなげていくと
うろこのような首飾りができる。もうひとつは涙型の直線パーツ

を一番長いのを中心に両側に少し短いのを順次つなげていくと
ジャラジャラと音がする感じの美しい首飾りができた。

『あれ、これは昨日の晩見たのとよく似ているが格段の差だ』
オサムがそう思ったとき、彼がポツリと語った。

「これが10マルクでよう売れるんやで。皿なんど洗っとらんと
はよこれし。おっとこれ内緒やった。縁日におこられる」

「これが売れると分かったら皆がまねをするからでしょう」

「そうや。今まで誰にも言わんかったのに言うてもた。
わしは石松というんやが、今んとこ日本人でこれをやっとるのは
縁日とよれよれとわしとの3人ほどや。皆平日作って土曜日の晩

だけ売りに行く。1晩で10万円以上は売れる。そうや、
よれよれはこないだ捕まって今刑務所や」

なんと、オサムは耳を疑った。1晩で10万円!。1ヶ月
皿洗って5万円なのに。刑務所?やばいことなのかこれは?
しかしとんでもないことをこの人は教えてくれたものだ。

「絶対誰にも言うたらあかんで」
どすの聞いた声で石松はオサムをにらんだ。
だがめがねの奥の目は笑っていた。

「そうや。時々ポリスがいきなり現れることがある。
この時は1番角の奴がパッとたたむと皆一斉にパッと
たたむことになっている。捕まったら最悪や。ポリス

どまりだったら罰金で済むけどイミグレーション
までいってしまうと、国外退去や」

「・・・・・・・・・」

「これさえ覚悟しとけばあんたもやる気があるんやった
らやんなはれ。わしが縁日に言っとくから」

「是非お願いします。また明日来ます」
「よっしゃ。ほなわっかった」

そして石松は再びオサムの耳元でこうささやいた。

「絶対にほかにしゃべったらあかんで」
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