デュッセルドルフの針金師たち前編
しばらくすると
ものの数分のうちにヒッピー達は路上に整然と再オープン。

こんがらがったケッテをほどくまもなく次から次へと売れていた。
『なるほどこれじゃ10万はいくわ・・・・・』
平日でも売れるだろうが製作が間に合わないのだ。

クリスマスの頃はどうなるのかと思うと身震いがした。
『よし、俺は絶対針金をやるぞ!デュッセル1の針金師になるぞ!
あの1番角を必ず取るぞ!』    と一大決心をした。

早速石松にニッパーや材料のジルバードラート(銀針金)、
ビーズ玉などなどの仕入先を教えてもらい、製作に入った。
あの縁日が逸品渦巻き指輪の作り方を教えてくれた。

売れ筋のうろこ、ジャラジャラや指輪を部屋で黙々と作り
続ける。なかなか時間がなくて多くはできない。
久しぶりに東京館へ手紙を出してみた。

「どうも針金をやることになりそうだ」と。返事は来ない。
ケッテ作りはとても単調であきてくる。ひとつテーマを決
めて石松や縁日とは違うオリジナルを作ろうと決心した。

テーマは”アンバランスの調和”。大小の円形を主体とした
バランス作品が少しづつ増えていった。ひとつのケッテで
単価50円くらいでほとんどが手間賃。これが10マルク

約千円で売れればなんと粗利益95%の化け物だ。かならず
売れるはずだ。完成品が1ヶ2ヶと出来上がってきた。
そろそろこれを持ってユースに行ってみようか、自信作だ。

しかしデザインを盗まれるかも?とか思いつつユースに着くと
石松と縁日がこつこつと隠れて作品を作っている。
近づいていくと石松が気付いて、

「どうや?」
「まあまあです」
「いつデビューするんや?」
「次の次の土曜日くらいです」
「がんばりや・・・・・」

縁日は目もくれず黙々と作り続けている。石松もまた作業を始
めた。オサムはそーっと新作を袋から出しながら、

「こんなん作ってみたんですけど・・・・・」

二人は手を止めて覗き込む。石松が、

「なんやこれ?」

オサムは自信を持って答えた。

「アンバランスの調和というんですワ」

ところが二人は大声で、

「こんなん売れるかいな!」

縁日はさっさと作業し始める。オサムは納得いかない。

「売れませんかね?」

石松は確信を持って答える。

「売れへん売れへん。とにかく売れ筋を大量に作っと
かんと、ほんまに、すぐ売り切れてもうてどもならんで」

「そうですね。ようわかりました」

オサムは意をそがれてしょんぼりと新作を袋にしまった。



< 45 / 64 >

この作品をシェア

pagetop