デュッセルドルフの針金師たち前編

出港2

機動隊の姿が消えると各デモの隊列が大きくうねるように入り乱れた。
手をつなぎ道路一杯に広がって日比谷公園に到着。
汗だくで各セクトが個別に総括しあっている。

結局何も起きずにエネルギー発散だけの自己満足に終わるのか?
今年の4月には大阪御堂筋のデモにも参加した。
淀屋橋の上で南北のデモ隊が機動隊に分断され合流突破は成されなかった。

だが個人的には何かを見つけなければ、この心の空洞の中に一点突破の何かを
見つけなければとの思いが日ごとにつのりつのって、
とにかく日本を飛び出そうと決心した。1ドル360円の時代だ。

相当の覚悟がいった。事と次第ではもう帰れないかもと真剣に思った。
それからの治は朝昼晩とアルバイトに明け暮れた。
「遠い世界に旅に出ようか」「青年は荒野を目指す」の歌を口ずさみながら。

やっと半年、出発が決まると大学に休学届けを出し広島の育ての親にも
挨拶をしてくるみともお別れだ。最後の日にホテルのテレビをつけると
よど号のハイジャック事件ばかりだったのが懐かしい。

出発前日どうしてもくるみは来るという。東京の勝秀の所に二人泊めてもらい、
「送りに来なくていいから」とメモを置いて夜明けと共にそっと旅立った。
埠頭の最先端で何度も飛び上がって手を振っていたくるみの白い夏服の姿が忘れられない。

後日くるみはウィーンに来ることになるが、結局来れなくて人生はこの
ナホトカ号から大きく新しく転換し始める。とてもまぶしい真夏の横浜港であった。
< 5 / 64 >

この作品をシェア

pagetop