デュッセルドルフの針金師たち前編
マメタンの瞳をじっと見つめた。

「一晩で十万円も夢ではないと思うけど」

疲れた目でじっと見る。少しこえたかはちきれんばかりだ。

「一晩で十万円?」
「ああ、一晩で十万円」

彼女がいぶかしげに見つめ返す。

「ただし、一度つかまると罰金か刑務所行き。最悪の場合は
国外退去だそうだ」

オサムはタバコに火をつけた。

「現に今一人、よれよれというのが刑務所に入っている」

マメタンはじっとして神妙にオサムの話を聞いている。

「もっか、針金をやっている日本人はこの三人しかいない。
絶対秘密にしておこうということで俺が特別に今四人目に
なりかけている・・・・」

「・・・・・・・・」

「今週末に初めて売りに出るつもりだけど、君にも覚悟がいる。
とにかく一度売ってみたい。さっそくでなんだけど、
製作を手伝ってくれまいか?」

ねぎらいの言葉も優しい一言もなく、今後の厳しい見通しを
ただ淡々と述べるオサムの不安が伝染したのかマメタンは
視線をずらしてうつむいた。

「ま、ゆっくり休んで考えてて、俺店行くから」

オサムはタバコの火を消して立ち上がった。出掛けに足が
テーブルに当たって上の置物がガタンと倒れた。それはそう、
あのハッシシまがいの壁土の塊だった。

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