デュッセルドルフの針金師たち前編
夜11時オサムが部屋に戻ると、マメタンは
もくもくと針金を丸めていた。

「どう?」
「だって、もう来ちゃったんだもの。
やるっきゃないでしょ」

久しぶりに聞く関東弁だ。

それからの4日間作りに作って50本の完成品
ができた。うち10本はあのアンバランスの調和
だ。売れるやろか?

さあ土曜日が来た。店が終わって11時。90cm
x90cmの小さい黒べっちんと”各10マルク”の
札を用意して、とにかく1時間でも出してみよう。

アルトシュタットの十字路付近はもうものすごい人だから、
かなり離れた銀行の角の人もまばらなスペースで、
とにかく広げてみることにした。

なかなか、人目とポリスが頭をよぎって広げられない。
「えいっ!」
目をつぶって布を広げ一気に作品を並べた。

値札を置こうとしたら人だかりができて、
「ビーフィール?」(いくら?)
「ツェーンマルク」(10マルク)

たちまち売れ出した。ビニール袋に入れるまもなく
もう手渡すだけ。お金もかばんに投げ込む感じだ。
ああ、並べ終える間も無くわずか30分で売り切れ

てしまった。アンバランスの調和も完売だ。布を
すばやくたたみかばんにしまって立ち去った。
くしゃくしゃのお札たくさんのマルク。

部屋に帰りしわを伸ばしながら、真剣に数えた。
500マルクきちんとあった。30分で5万円。
皿洗い1ヶ月で5万円。やるべし針金!

なるべし!デュッセルドルフいちの針金師!
二人の心はこの時はっきりと決まった。
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