デュッセルドルフの針金師たち前編

シベリアの空1

ナホトカ号は中型のソ連船でホテルで言えば三つ星クラスか。
夜になると生バンドとダンスパーティーがあってベンチャーズを弾いたりしている。
船が傾くたびに皆ぞろぞろと踊りゆれた。

当時はやりだしたヒッピースタイルの西洋人が数人
フロアの回りにしゃがみ込んだりしていた。

津軽海峡を抜けるとナホトカへ一直線だ日本のテレビも映らなくなった。
コンパートメントは二人一部屋で日大の落研と同室になった。
”走れコータロー”のマネがとてもうまくそれからずっとコペンハーゲンまで一緒だった。

食事は円卓で50代の小説家夫妻と東京からの女性二人に我々を加えての6人で上陸まで同席した。
初日とその翌日はまだまだ元気でトランプしたりうろうろしたりしていたが、
3日目日本海に出た頃から波荒く船酔いで食欲はなくなり皆一様に元気をなくした。

日本からかなり遠ざかるとさすがに真夜中に目が覚めたりして、
俺は今一体何をしてるんだろうと思ったりした。

治は首からいつもブルーのバスタオルをかけていたので”青タオル”と呼ばれていた。
同卓の女性の一人は元東京都の職員で”まめたん”
その名のとおり小柄でぴちぴちして元気一杯の娘だった。
JUST MARRIEDのTシャツをいつも着ていたので乗客にからかわれたりしていた。

乗客は200人くらいで半分以上が日本の青年でほかは欧米人だったようだ。
まだまだ日本語オンリーで欧米人と話すのは大変だった。それでももう後戻りはできない。
ファイト!何とか自分自身を元気付けていよいよ上陸間近。
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