サヨナラと言いたかった
こうちゃんは、何も言わずうつむいていた。



「……もう、帰る。
ここで降りるから。」



そう言って車のドアを開けようとした私の手を
こうちゃんはぎゅっとつかんだ。



「待って!俺、実は…。」


こうちゃんが私の手をつかんだまま、しばらく沈黙が流れた。



「…いや、なんでもない。駅まで送っていくから。」



言いかけた言葉をのみこんだまま、こうちゃんは車を発進させた。


駅に到着するまでの間、私たちは一言も会話を交わさなかった。


私はずっと下を向いたままで、
こうちゃんは、ときどき何か言おうとしていたけど結局何も言わなかった。


< 107 / 117 >

この作品をシェア

pagetop