サヨナラと言いたかった
気がつくと、私たちは2時間以上も
話し続けていた。


「ユイは何時まで大丈夫なの?」


「あ、もうすぐ4時か

・・・そろそろ帰らなきゃ。
5時には保育園に娘を迎えに行かなきゃいけないの。」


「そっか。
俺も仕事をサボって来ちゃったから、
そろそろ会社に戻るわ。」


そう言ってこうちゃんは、腕時計をじっと見つめた。


「2時間半・・・


5年の時間を埋めるには短すぎるな。」


私も同じ気持ちだった。

あっという間に時間は流れて、
話し足りないことがたくさんあるように思えた。


もっと聞きたかったことが
たくさんあったはずなのに。


奥さんとはうまくいってるの?


私と別れたあと、どんな想いで5年間を過ごしてきたの?


あのとき、どうして何も言わずにいなくなってしまったの?


本当に聞きたかったことは、
胸の内にしまったまま―――


私たちは店を出ることにした。



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