サヨナラと言いたかった
原田先輩がいなくなってからすぐに、
こうちゃんから電話が来て
『食事に行こう』と誘われたとき、私はどうするべきか本当に悩んだ。


これ以上先に進めば
もう後戻りはできないと
わかっていたから。


当時、こうちゃんは単身赴任中で
東京には奥さんと子どもがいた。


そんなことは、最初に会ったときからわかっていた。

だからなるべく好きにならないように、
近付き過ぎないように努力していたのに


私が必死に守ろうとしていた心の鎖は
いとも簡単に外された。


1998年、12月。



私は、初めてこうちゃんに抱かれた。


初めて心の底から、愛しいと思える人を見つけた。
< 30 / 117 >

この作品をシェア

pagetop