サヨナラと言いたかった
どうしてもこうちゃんには知られたくなかった…。


もしも奥さんが私の存在に気づいていることを
こうちゃんが知られたら…

私たちの関係は、終わる。



それがわかっていたから、本当に怖かった。

私が本当に怖かったのは、奥さんの存在じゃない。


こうちゃんに捨てられること。


「ほら、早く会社に行かないと遅刻しちゃうよ!
今日は、駅で7時に待ち合わせだったよね?

おいしいお店見つけたからそこに行ってみようね。」


不必要なほど明るく振舞っている私を
こうちゃんは、ただだまって見ていた。

何か言いたそうな顔をしていたけど、
結局その日は何も言わないまま部屋を出て行った。


こうちゃんが去っていく足音を聞きながら、思った。




―――もう、だめかもしれない。


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