サヨナラと言いたかった
「3月の卒業式の日は、俺がユイを迎えに行く。


式が終わったらすぐに一緒に籍を入れに行こう。



――――結婚しよう。」



二回目のプロポーズ。




私はこの日、二人で交わした会話を今でもはっきり憶えている。



こうちゃんの瞳が日の光を浴びて、いつもよりも茶色く見えたことも。


電車が揺れるたびに、カサカサと擦れ合うコートの音も。


こどもたちの楽しそうにはしゃぐ声も。

遠くから聞こえてきた誰かの鼻歌も。




そして、最後に
ぎゅっと握られたてのひらの感覚も。


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