追憶 ―混血の伝道師―
彼女は急に興奮し、僕は戸惑いと嬉しさを隠しながら、冷静にそう聞いた。
「どの辺りかは分からないですけど『迷いの森』とか『精霊』とか、Nの世界史とは別物で!!楽しくてっ!!」
彼女は変わらず興奮していた。
愛犬のコンは、それを聞いて嬉しそうに僕を見上げている。
「…完全な別物…でもないんですけどね?根本は同じなんですけどね…?」
「そうなんですかっ!?」
彼女の顔がグッと近付いた。
それに驚いて、思わず身を引いてしまった。
「…ぁ、すみません。1人で興奮してしまって。…あ!!いけない!!私、次の講義があるんでした!!行かなきゃ!!」
「…あぁ、僕も戻らなきゃ」
お互いに腕時計を確認すると、慌ただしく身支度を始める。
「――先生の講義、楽しみにしてます!!じゃあ、また!!お先に失礼します!!」
バタバタと走り出す彼女を、僕は手をあげて見送った。
丁度、すぅ…と良い風が吹いて、木々が揺れた。
ふんわりとした清楚な女性。
それに加えて、
元気で慌ただしい一面も持つ。
「…ぁ、彼女の名前、聞くのを忘れましたね…」
『――だなっ!!』
僕の講義を取ると言っていたし、その内に会うことになるだろう。