追憶 ―混血の伝道師―
『――なぁ、なぁ』
チョンと脇腹をつつかれてコンを見下ろすと、ベンチには1冊の本。
「…彼女の忘れ物?」
『慌てん坊さんだなっ!?』
その本のタイトルを見て、
僕はクスリと笑った。
――深い森――
それは「世界史Y」とも深く関連する内容が書かれた書籍だ。
「かなり勤勉家な慌てん坊さんの様ですね?これから、楽しくなりそうだ…」
『ほぉら!話し掛けた俺様、正解だったろ!?褒めてくれてもいいぞっ!?』
コンが短い鼻を空へと突き上げて、得意気に鳴いていた。
「…はいはい」
『なにーっ!?それ!!俺様、ちゃんとお前が変人にならないように、静かに黙っていてあげたのにぃっ!?』
「……お利口でしたね?」
手のひらにスッポリ入る頭をグリグリと撫でてやると、
『ふふん』
そう鼻息をたてるコンは、その小さな可愛らしい体で、しばらく偉そうに振る舞っていた。
しばらく歩くと、広場の出入口から先は薄暗い視界の悪い街並みへと変化していく。
この地区は、常に薄暗い。
ポツリポツリと道端に立つ、ガス灯のオレンジ色の灯りだけが頼りだ。