追憶 ―混血の伝道師―
「すみません。カゴをガリガリしてたので出しちゃいました、コンちゃん。」
血筋か?…呑気だ。
周囲を見回すと、
幸い郊外へ向かう汽車の中は人も少なく、
「大人しくしとけよ?」
そう注意だけで事なきを得そうだった。
「…昨日から思ってたんですけど、実はコンちゃんて頭が良い犬ですか?」
「え?」
「なんか私たちの言葉を理解してそうだし、手紙の文面も覗き込むし…」
……困った、やはり血筋か。
呑気に見えて、なかなか鋭い。
どこから説明しようか。
「孫娘」は長い移動中に、のどかになるしかない窓の風景に飽きて寝てしまうだろう。
そう予測して、
長い汽車での時間潰しに読もうと持ってきていた数冊の本たちは、今回は活躍しそうにない。
興味津々の彼女の前では、無駄な荷物になってしまいそうだ。
「…えぇと…」
頭が良いと言われたコンは、上機嫌に彼女の膝に座っていた。
「僕の担当生徒たちは知っている方が多いけれど、基本的には秘密になっている事で…。世界史Yの生徒の特権というか…」
まぁ、いいか。
学園長の孫娘な訳だし、
今期からは僕の生徒になるようだし…。
「…僕ね、動物や物の言葉が分かるんですよ。だから、コンとは言葉のやり取りをしているんです。」