追憶 ―混血の伝道師―
「――あ。あと、これも」
僕が差し出したのは、昨日道端の猫が発見してくれた布袋。
「重ね重ね、すみません…」
「本は昨日ベンチで。布袋は広場から大学への道端で。発見してくれたのは馴染みの猫さんですよ。」
「……ありがとうございます」
どうやら落とした事にも今気が付いたらしく、ユリさんは肩をすくめて恥ずかしそうに笑っていた。
「…さあ、始めます。世界史はNとYに分かれてますが、皆さんに馴染みのあるNは人間史。Yは妖精史です。」
「はい…!!」
気を取り直したユリさんは、キリッとした目つきでノートと筆を構えていた。
どうやら布袋は、筆入れだったようだ。
「人間史の起源も、本当は『妖精史』から始まるんですね。しかし、人間史の序章にはこう書かれている…」
――私たちの祖先は、木々が立ち並ぶ大地を開拓し、…――
「……抜け落ちているんです、始まりが。そして、その後はご存知の通り。ガス資源の発見や、工業の発展…」
どう世界が繁栄していったか、その経緯を年表に添って辿るのが人間史。
今や当たり前のガス灯や、今乗っている汽車だってガスの熱で動いている。