追憶 ―混血の伝道師―
「――やっぱりっ!?」
急に上がったユリさんの声量に、退屈で眠り始めたばかりのコンがピクリと首を上げた。
『…ぅるさくない?せっかく俺様が「大人しく」してやってるのに…』
のそのそと、
自ら戸の開いたカゴに入った。
「コン?」
『これで誰かが来ても安心。俺様、カゴの中。おやすみ…』
人間社会での生活で、随分と利口になったもんだ。
動物は「手荷物」になる事、汽車の中で野放しにしていたら怒られる事、人様の迷惑になる事を理解している。
ワゥ?
『…ぁ。戸は閉めんな?閉めたらガリガリするからな?』
「はは、分かってるよ」
心配そうに、
ユリさんが声を落として僕に聞いた。
「うるさくして怒ってます?」
「あぁ大丈夫。周りに遠慮してカゴに入っただけだよ。まぁ、この汽車自体…この辺りまで来ると、あまり人も乗らないけどね?」
「……?」
僕の視線につられて、ユリさんも窓の外を覗き込んでいた。
街からは大分離れ、
ガス灯の数もまばらに薄暗く、
植物の緑が濃くなってきていた。
街へ向かう反対方向の汽車は乗客も多いだろうが、この汽車は違う。
「この汽車で、僕たちはずっと先の終着駅まで行くからね…」