追憶 ―混血の伝道師―
4・深い森と赤色のランプ
4・深い森と赤色のランプ
朝1番の汽車に乗った。
終着駅『樹海前』に着いた時には、もう夜がふけていた。
この陽が昇らない夜の世界で、
確実に時間を知れるのは、
腕につけていた互いの腕時計。
それが止まってしまう事を、
僕は知っていた。
「…先生…今、何時ですか?私の腕時計…ガスが切れちゃったみたい…?」
「ガス切れじゃないですよ。僕のも止まってます。樹海の磁気でね、機械類はダメになっちゃうの」
駅から暫く歩いて、
もう樹海は、すぐそこ。
僕は自分の腕時計を外すと、意味を成さない不要な物を荷物のポケットに放り込んだ。
「…えぇ~?じゃあ、どうするんですかぁ?もう夕飯時?お腹すきました~」
汽車の中での長い講義を終え、初めは大分緊張していただろう彼女も、僕に気を許すようになってきていた。
「もう少し我慢して?樹海に入れば、僕んちはすぐだと思うから」
「思うから…って。本当ですか?だって、さっきの話だと樹海は広いじゃないですかっ」
「まぁまぁ…」
どうやらお腹がすいて、
彼女は少し機嫌が悪いらしい。